仕事を知る仕事を知る

仕事を知る

新興国M&Aは人間ドラマのるつぼ

   

現在はCaN International FAS株式会社で、主にクロスボーダーM&A業務に従事している小田さん。タイ拠点であるCaN International Advisory (Thailand) Co., Ltd.に在籍していた約5年の期間には、タイおよび周辺国向けのクロスボーダーM&A案件を数多くサポートしてきました。 今回は、新興国におけるM&Aの難しさやM&Aを通じた日系企業の海外進出サポートのやりがいについて語っていただきました。

  • 小田 英毅

    CaN International FAS株式会社
    取締役 公認会計士

  • 新興国M&Aは人間ドラマのるつぼ新興国M&Aは人間ドラマのるつぼ

M&Aにおける担当業務および、実際のチーム体制を教えてください

  • CaN International FAS株式会社ではM&Aプロセスにおいて主にデューデリジェンス(以下、DD)および株式価値算定、買収後の統合(以下、PMI)支援といった業務を実施しています。また、CaN International税理士法人と連携して、税務上の検討を踏まえて投資スキームのアドバイスを行うこともあります。
    DDチームの組成にあたっては、基本的に対象会社所在国の会計・税務の専門家をアサインします。CaN Internationalのメンバーは財務・税務DDに関してプロジェクトのコーディネートを担当します。具体的にはお客様や対象会社、ファイナンシャルアドバイザーや弁護士を含む法務DDチームと直接コミュニケーションをとりながら、現地専門家に対するインストラクションの送付、成果物のクオリティーコントロールなどを実施します。また、現地往査に参加し、資産の現物確認やマネジメントへのインタビューを行うこともあります。

新興国企業に対するDDの特徴は?

  • たくさんあるのですが、たとえば日本企業に対するDDと比べると、提出される資料が限定的であることが多いです。また、国民性からか、依頼資料リストをきちんと読んでくれないことも多いですね(笑)。そのため、資料依頼の段階で対象会社を訪問して、依頼資料リストの内容について説明する場を設けることもあります。さらに会計帳簿と整合している勘定明細が存在しない、作り方がわからない、といったことは頻繁に起こります。むしろ勘定明細が出てきたら大したものです(笑)。

それは非常に悩ましい状況ですね(笑)
そのような状況でどのようにDD手続を進めるのですか?

  • 我々はお客様である買い手の投資判断に資する情報を入手することに最大限努力しなければなりません。限られた時間のなかで、投資判断に影響を与える重要なリスク項目を識別し、対応を検討します。資料閲覧や事業インタビューを通して理解した取引について、あるべき会計処理を推測し、実際の会計処理を検討することによって会計処理の誤りや簿外取引を検出することもあります。そのため、リスク項目の識別と仮説設定が非常に重要になります。
    同時に、資料を提出してもらえるように努力することも必要です。粘り強く膝を詰めてコミュニケーションをとっているうちに資料が円滑に出てくるようになることもあります。新興国では信頼やつながりが重視される傾向が強く、対象会社とDD実施者の関係も例外ではありません。信頼関係を築くことができればおのずと対応が変わってきます。

新興国企業に対するDDで印象に残っている出来事はありますか?

  • 税金対策のために二重帳簿を作成している企業にはこれまで多く直面してきました。仕入先から架空取引に係る請求書を入手して費用を過大計上したり、得意先から個人口座に入金してもらい収益を過少計上したりするのは典型的な手口です。インタビューの中で正直に話をしてもらえるケースもあれば、DD手続の中で検出するケースもあります。このようなケースでは税務リスクが高いことはもちろん、正常収益力の算定にあたっての取扱いや、買収後の取扱いについて慎重に検討する必要があります。
    新興国ではオーナーが社内の従業員と家族のような関係を築いていることが多く、ディールがまとまり、オーナーが従業員に対して事業売却をアナウンスしていた際に、長年勤めていた従業員が感極まって涙を流す場面に立ち会ったときのことは印象に残っています。また、無事案件がクロージングしたあと、対象会社のマネジメントから夕食に誘われ、酒を飲みかわしながらプロフェッショナルとして信頼できると言われたときは、非常に嬉しかったです。

M&Aでは買い手と売り手との信頼感が重要だと思いますが、
クロスボーダー案件ではどうでしょうか?

  • 買収後に対象会社を円滑に運営するためには経営陣やキーパーソンとの密なコミュニケーションが不可欠です。異国で育った相手とコミュニケーションをとるのですから、日本のものさしで良し悪しを判断するのではなく、相手国の考え方や慣習を尊重しながらもお互いに譲れない点については妥協点を探りあうことが重要です。特に前述したとおり新興国では家族意識や、人間関係のつながりを大切にする傾向が強いと感じています。
    買い手の担当者が何度も訪問してコミュニケーションを重ねていくうちに、初回の顔合わせでは無表情で笑いもしなかった対象会社の経営陣と、冗談を言いあうような良好な関係を築けたケースもありました。この例では買収時には多数の課題が検出されたものの、課題解決のためにお互いが協力することよって、比較的円滑に事業運営および財務報告体制の構築を行うことが出来ました。

お客様に感謝されるのはどのようなことが多いですか?

  • DDの過程で会計処理の誤りにより財務数値が実態と大きく乖離していることを発見したり、粉飾や不正を発見したりした場合には、やはり感謝されます。また、財務・税務DDとは直接関係ない分野であっても、たとえば事業面に係るインタビューに同席し、対象会社とのコミュニケーションをサポートしたときなどにも感謝されることが多いです。
    買い手が上場会社であれば連結決算を行うために正確な財務報告を海外子会社から適時に受けなければならないため、現地での体制を構築する必要がありますし、また、対象会社の規模によってはJ-SOXに準拠した内部統制の構築、文書化、検証作業などが必要になります。
    新興国企業に対して実施したDDの報告書には通常対象会社が有する課題が多数記載されるのですが、その課題解決にCaN Internationalがどこまで協力してくれるのかをお客様はいつも気にされます。DDフェーズでの働きを見て信頼いただき、引き続きPMIを依頼されたときには嬉しく思いますし、PMIフェーズで対象会社と一緒に協力して重要な課題から一つ一つ解決していく作業にはやりがいを感じます。

クロスボーダーM&Aのやりがいを教えてください

  • M&A自体が高度な判断を要する取引ですが、それに加えて新興国におけるM&Aではご説明したような定量化できないチャレンジングな状況が発生します。数々の困難を乗り越えて、無事にクロージングを終え、旧経営陣やキーパーソンと良好な関係を築きながら、当初想定していたM&Aの目的が達成できると、良い案件をサポートできたことに嬉しくなります。
    日系企業が欧米先進国や現地企業とのグローバルベースでの競争に勝ち抜いていくためにはM&Aは今や必須の手段です。そのサポートを通して日系企業のプレゼンスを向上させ、国際社会に貢献したいと強く思っています。
    そのためには、CaN Internationalがチーム体制をさらに強化させることが欠かせません。多数のガッツのある方に参加してもらい、一緒に働けることを楽しみにしています!